冲方丁「十二人の死にたい子どもたち」感想
新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いてきたかに思えた昨今、都心ではまたじわじわと感染が拡大していますね。
私の勤める図書館は交代勤務は解けたものの、入館制限は継続しているため館内は閑散としています。
仕事はあるのですが、本を手に取る利用者の姿が見られないのは寂しいですね。
さて、今回私が読んだ本は冲方丁さんの「十二人の死にたい子どもたち」。
映画化されているのでタイトルだけは知っていたのですが、ストーリーは全く知らなく、また興味のあるタイトルだったので手に取ってみました。
冲方丁さんの本を読むのは初めてです。
それまでは「天地明察」のイメージが強い方でした。
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*>あらすじ<*
『マルドゥック・スクランブル』『天地明察』を経て、冲方丁がデビュー20年目にはじめて書く現代長編ミステリー!
廃業した病院にやってくる、十二人の子どもたち。建物に入り、金庫をあけると、中には1から12までの数字が並べられている。この場へ集う十二人は、一人ずつこの数字を手にとり、「集いの場」へおもむく決まりだった。
初対面同士の子どもたちの目的は、みなで安楽死をすること。十二人が集まり、すんなり「実行」できるはずだった。しかし、「集いの場」に用意されていたベッドには、すでに一人の少年が横たわっていた――。
彼は一体誰なのか。自殺か、他殺か。このまま「実行」してもよいのか。この集いの原則「全員一致」にのっとり、子どもたちは多数決を取る。不測の事態を前に、議論し、互いを観察し、状況から謎を推理していく。彼らが辿り着く結論は。そして、この集いの本当の目的は――。
性格も価値観も育った環境も違う十二人がぶつけ合う、それぞれの死にたい理由。俊英・冲方丁が描く、思春期の煌めきと切なさが詰まった傑作。
*>感想<*
とにかく、面白かった。
こんな陳腐な言葉しか思いつかないのですが、本当に面白かったです。
まず最初に十二人の子どもたちが一箇所に集う形でそれぞれの人となりを簡単に知ることができるのですが、その時点では一気に出てくる登場人物に「それぞれの名前やキャラクターをきちんと覚えていられるだろうか」と不安に思っていたのですが、
その心配はまったくありませんでした。
文字の上ですがそれぞれの登場人物の姿は容易に思い浮かぶし、声まで自分の中で作られていました。
"十三人目いわゆる「ゼロ番」は一体誰で、どうしてそこに寝ているのか"ということは物語通しての疑問ですし、読んでいるコチラももちろんとても気になっていたのですが、それよりも各登場人物が「なぜ、死にたいのか」「何を考えているのか」ということが気になって気になって仕方がなかったです。
サトシはどうしてこんな集いを開催したんだろう?その思惑は?
そして最後にはサトシの本心を知ることになりますが、個人的にこのサトシの気持ちこそがこの本で一番重要なことだと感じます。
ケンイチはとにかくウザい、空気が読めない。始めからずっと一貫して登場人物や読み手のイライラを誘います。
このイライラがかなりスパイス。
ミツエはバンギャ。ある意味一番芯が通っていると思います。
リョウコにあれだけ強く反発できるのは唯一ミツエだけです。
リョウコは正体不明のマスクと帽子の少女。その正体は文中で明らかになります。
正体が明らかにしたリョウコはとても強く、可憐で憧れました。
シンジロウは探偵役。明晰な頭脳と巧みな話術をもってその場を進行しますが、イヤミが無い。
だからこそ終盤にシンジロウが打ちひしがれるシーンが強烈でした。
メイコは徹底して嫌な女でした。
話し方も動作も考え方も、最後まで嫌な役だったと思います。
でもメイコの気持ちって、誰しも少しはわかるんじゃないでしょうか?
アンリ。彼女も頭脳明晰でリーダーシップがありますが、やや高圧的。
思考回路が他の子どもたちとは違う次元なので、こちらも理解に苦しみます。
アンリもまた、理解されない苦しみを味わっています。
タカヒロは吃音の少年です。薬を常に服用しており思考がなかなかまとまらないが、意外と頭は良いようです。
彼の話し方が一番子どもたちの心境の変化を分かりやすく表しています。
ノブオは何でもできてしまうが故にイジメられてしまうタイプの子です。
この集いである"貴重な経験"をし、彼の価値観が少しだけ変わることになります。
セイゴは心優しき不良少年です。物言いは悪いけれど弱い者を見捨てられないタイプ。
悲しさと優しさが言葉の端々に隠れているので憎めないですね。
マイは個人的には一番お気に入りの子です。ギャルで深く物事を考えない。しかしこの集いに参加した理由は驚くべきことでした。
マイの裏にはもっと何かあるかなーと期待していたのですがマイはずっとマイのままでした。それもそれで良かったかなと読了して思いました。
ユキはほとんど人と話さず、目もあわさず、圧倒的に描写の少ない子でした。
もちろんこれもとある理由があったからなのですが、私は半分予想通りで半分驚きという感じでした。
というように、登場する十二人それぞれの印象が驚くほどスッと入ってきて、また驚くことに最後には全員に何故か愛着が湧くんですよね。
節ごとに視点が違うというところにもトリックがありますし、物語の始めから多くの伏線が張ってあるのでミステリーとしても十分楽します。
しかし私はそれ以上にヒューマンドラマを見ているような気持ちになりました。
死にたい子どもたちの死にたい理由はそれぞれで、それは人には理解されないようなことばかりです。
感情移入というよりは、人間観察をしているような気持ちで読んでいただければと思います。
子どもたちの大きな選択はぜひ皆さまの目で。
ぜひ、ご一読を。
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アイキャッチ:Free-PhotosによるPixabayからの画像
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