つい先日も「いけない」の感想を書きましたが、今回は道尾秀介さんの最新作「雷神」を読んだ感想を書いていきたいと思います。
道尾秀介さんといえば「どんでん返し!」という声をよく聞きますが、今回はまた一味違うガツンと来る衝撃をのこしてくれる作品でした。
今回は最新作のため、ネタバレは無しとさせていただきます。
この記事を読んで興味を持たれた方はぜひご自身の目でその結末を見届けていただければと思います。
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*>あらすじ<*
埼玉で小料理屋を営む藤原幸人のもとにかかってきた一本の脅迫電話。それが惨劇の始まりだった。昭和の終わり、藤原家に降りかかった「母の不審死」と「毒殺事件」。真相を解き明かすべく、幸人は姉の亜沙実らとともに、30年の時を経て、因習残る故郷へと潜入調査を試みる。すべては、19歳の一人娘・夕実を守るために……。なぜ、母は死んだのか。父は本当に「罪」を犯したのか。村の伝統祭〈神鳴講〉が行われたあの日、事件の発端となった一筋の雷撃。後に世間を震撼させる一通の手紙。父が生涯隠し続けた一枚の写真。そして、現代で繰り広げられる新たな悲劇――。ささいな善意と隠された悪意。決して交わるはずのなかった運命が交錯するとき、怒涛のクライマックスが訪れる。
物語の始まりは15年前。まだ幼い一人娘夕見(上のあらすじでは夕"実"ですが文中では夕"見"です)が育てていたアザミの植木鉢をベランダから落としてしまったことがきっかけで母、悦子は交通事故にあって死んでしまいました。
主人公幸人は夕見のせいで悦子が死んでしまったことをずっと夕見には隠し続けるつもりでした。幸人は父の小料理屋を継ぎ、夕見も大学生に親子仲良く暮らす平和な日々が続きます。しかしある日、「お前の子どもがやったことを知っている」という脅迫電話が入り、幸人が必死に築いてきた夕見の安寧が崩されようとすることが判明し、遠くに逃げるために生まれ故郷である新潟県の羽田上村へ訪れる……というのが序盤のストーリーになります。
この物語はそれぞれの時代に起きた事件が巧妙に絡まって紡がれた長編ミステリーです。
それぞれの時代、というのは
- 神鳴講(羽田上村で毎年行われる祭)の準備をしていた幸人の母、英(はな)が不審死を遂げた31年前
- 神鳴講で毒殺事件が起き、その容疑が父、南人にかかり村を出ることになった30年前
- 夕見がアザミの植木鉢を落としたことで悦子が死んだ15年前
- 脅迫電話の主から逃げるため、また30年前の真相を知るために再び羽田上村を訪れた現在
の4つを指します。
それぞれの出来事、登場人物の思いが交錯するのに加えて雷という超自然的な偶然が重なることで物語はさらに濃く、読者が想像できない方向に転がっていくのが魅力です。
*>感想<*
この話を読み終わって、個人的に感動したことが2つあります。
まず1つ目は、「大切な人を身を挺してでも守りたいと思う心の強さ」。
そして2つ目は、「思いが強すぎるがゆえに見えるものを見ようとせず、結果として哀しい事件を招いてしまうという運命の悪戯」です。
主人公幸人も、その父親である南人も姉である亜沙美も雷電神社の宮司である容子・希恵親子も。それぞれが大事なものを守るために心に傷を負いながらも奮闘します。
村の4人の権力者に強い憤りを覚えると同時に、家族や友人を守ろうとする彼らの行動には強く胸を打たれました。
結果としてそれは切ない結末になってしまったかもしれませんが、30年前の真相が判明したときは家族の絆の強さに思わず涙が出てしまいそうになりました。
そしてそんな感動的な話に強いスパイスを与えているのが雷なんです。
物語を読んでいるうちに「○○さえなければ(しなければ)こんな哀しいことにはならなかっただろうに……」と心を揺さぶられるシーンがいくつもあるのですが、特に雷は登場人物たちにより過酷な運命をもたらしています。
みんなもっと幸せになる道があったはずなのに……と思わずにはいられません。
特にそれはラストの数行に強く感じられました。
他の作品の名前を出すのもあれかもしれないのですが、読後感としては「ミスト」というフランク・ダラボン監督の映画を見終わったあとのやるせない気持ちに似たものを感じました。
30年前の事件の真相に迫っていくところはさすが道尾さん!と言いたくなるような伏線回収でページを読む手が止まりませんでした。
今回もミスリードにはまんまと騙されてしまい、文中にある写真の秘密にも初見では気付けませんでした。
でも自分の予想とあっていることもあり、「なるほど!じゃあこの件はこういうことか……!」と推理する楽しみもありました。
ちなみに、物語の登場人物に彩根というカメラマンが登場しますが「このキャラクターどこかで見覚えあるような……」と思ったらやっぱり『獏の檻』に登場していた方ですね。この方、私もとても好きです。
ミステリーとしての読み応えはさることながら、心を打つ家族愛、そしてガツンと来るラスト。道尾秀介さんはもちろんのこと、まだ彼の作品を読んだことがないという方にも全力でおすすめできる作品です。
ぜひ、ご一読を。
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