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【読了記録】「正義の教室 善く生きるための哲学入門」感想

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今回は小説のような哲学の本をご紹介します。

哲学や数学などをわかりやすく解説されていることで有名な飲茶さんの「正義の教室」を読みました。

哲学入門書というだけあって初心者にも優しく、勉強になるだけでなくどこか考えさせられる大人にも学生にもおすすめできる本です。

 

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*>あらすじ<*

ソクラテスプラトンベンサムキルケゴールニーチェロールズフーコーetc。人類誕生から続く「正義」を巡る論争の決着とは? 私立高校の生徒会を舞台に、異なる「正義」を持つ3人の女子高生の掛け合いから、「正義」の正体があぶり出される。ストーリーだからわかる!つい人に言いたくなる「哲学家の思想」

ダイヤモンド社ウェブサイトより

 

高校生の主人公が倫理の授業を通して功利主義自由主義直観主義の3つの観点から「正義」を学んでいくというストーリー仕立ての哲学入門書です。

 

「哲学」と聞くとどうしても小難しく感じてしまうのですが、作中では専門的な言葉や難しい表現を登場人物が身近なシチュエーションに置き換えて説明しているのでとても易しいです。

哲学を学んでいる人からすると簡単すぎるという評価もあるようですが、それだけ哲学がわからない人向けに書かれているのでまさに入門書という感じですね。

 

 

*>きっかけは「ここは今から倫理です。」<*

この本を手に取るきっかけは雨瀬シオリさんの「ここは今から倫理です。」という漫画でした。

こちらは倫理の先生が主人公で、授業を通して生徒の生き方に少しだけ影響を与えていく……というストーリーなのですがこれが本当に考えさせられる内容で。

 

熱血教師のように積極的に生徒と絡んだりするわけでは無いのに先生が与える言葉、引用する哲学者の言葉がどれも心を打つんです。あまり語りすぎると脱線してしまうのでいけませんが、すっかりハマってしまってドラマも見てしまったほどなんです(笑)

 

その中で先生がソクラテスの「善く生きる(eu zen)」という言葉が好きだというセリフがあります。この言葉について作中で詳しく説明はないのですが、この言葉をもっと深く知りたいと思いました。

 

大学の時にとった哲学の授業はちんぷんかんぷんで非常に苦戦したのに、急に哲学をもう少しだけ理解したいと思い始めたころ、たまたまこの「正義の教室」が目に入ったので手にとってみたのです。

 

 

*>3つの主張と正義<*

作中の倫理の授業で先生ははじめに「正義は平等・自由・宗教の3つの判断基準がある」ということを説明し、それぞれを深堀りしていきます。

 

ちなみに主人公の周りには3人の女子がおり、(実は主人公は生徒会長で3人はその役員。ハーレム状態!)それぞれが平等・自由・宗教(道徳)を信じているという設定です。

主人公の客観的な視点と主義を持っているそれぞれの女子の主張と2つの視点があるので「それはやり過ぎなんじゃ……」とか「私の考えはこの主張に近いかも……」と胸に手を当てながら読めるのもポイントです。

 

平等の正義「功利主義

功利主義は「最大多数の最大幸福」を謳う主義です。つまり、なるべく多くの人が幸せになるようにしようというが功利主義にあたります。

 

作中では3人の人が1つのおにぎりを分け合うという例えがありました。

3等分して分け合うのが普通かと思われますが、実は3人のうちAさんは飢えており、BさんとCさんは満腹である。満腹のBさんとCさんがおにぎりを食べても幸福度はそんなに上がらないから、その分Aさんに多めに分け与えてみんながお腹いっぱいの状態を作ろう!

 

それが功利主義の考え方です。一見すると平等は正しく理にかなった主義に見えますが、

  • 幸福度の可視化・計算はできるのか(幸福の感じ方は人によって異なる)
  • 身体的な快楽は幸福と言えるのか(幸福の質の問題)
  • 功利主義は強権的になりがち(おせっかい・押し付けが生じやすい)

という問題があります。

 

自由の正義「自由主義

第2の主義自由主義は「とにかく自由を尊重する」ことを第一にした自由主義です。

自由主義の主張は幅広く具体的な例は難しいのですが、作中の授業では自由主義は「弱い自由主義」と「強い自由主義」の2つに分けられると説明します。

 

弱い自由主義は「幸福のために自由であるべきだ!」という功利主義に似た考えを持っています。

一方で強い自由主義はざっくりいうと「他人に危害を加えなければ自由にしておっけー!」という考えです。つまり、自殺をしようとしたり自ら不幸になろうとしたりしていたとしてもその人の自由だから助けなくても良いのです。

すべてが自己責任で完結する世界。それも社会の考え方の一つかもしれません。

 

そんな自由主義にも、

  • 格差が拡大してしまう(平等を重んじる仕組みが生まれない)
  • 自己責任によるモラルの低下(自分さえ良ければどうでもいいという考えが横行する)
  • 非道徳行為の増加(お互いの合意が得られれば売春・臓器売買も許される)

 

このような弱者が排除されてしまうような問題点があげられます。

 

宗教の正義「直観主義

最後の主義直観主義はシンプルです。「自分が瞬間的に正しいと思ったことを正義とする」、それだけです。

人を殺すことは悪、困っている人を助けることは善。深く考えなくてもなんとなく良いこと悪いことってわかりますよね。これが「直ちに観る直観主義です。

 

直観主義において「善」とは言葉・認識・経験などの枠組みの外側にあるとされています。

しかしこの善や正義のあり方については遥か昔、約2500年前から哲学史でずっと争われていたテーマであり簡単に答えが出せるものではありません。

誰しもが持っているであろう「善」の出処はずっと哲学で研究され続けてきたのです。

 

直観主義にも問題点はあります。しかしこれもシンプルです。

どんなに考えても完全な正義なんてわかるわけがない。

自分の正義を説明することなんてできないんです。

 

暴走するトロッコの先に2つに別れたレールがある。一方は人間がひとり。もう一方は

人間が5人。どちらのレールに切り替えるのが正しいのか、という有名な問題があります。

ひとりの方を選ぶべき、と思った方。もしそのひとりが自分の肉親・大切な人だったら?こんな具合に、「どちらが良いか」なんて考えられませんよね。

 

*>善く生きる<*

さて、作中の学校では実は変わったシステムが採用されています。

パノプティコン・システムという、哲学者ベンサムが設計した刑務所から着想を得た監視システムです。このシステムによって学校は常に監視をされています。

だから非行は起こせない。いじめは起きない。これが学校の狙いです。

 

生徒会長である主人公は最後に全校生徒の前でパノプティコン・システムについての考えを述べます。

そこにはソクラテスが言った「善く生きる」、この言葉が生きています。

この本を読み、彼の出した答えを見ればこの「善く生きる」という言葉がより深く心に刻まれることでしょう。

 

また、物語のラストにはこの本を総括するようなサプライズがあります。

ぜひご自身で目にして、驚き、考え、答えを出してみてください。

 

哲学に難しさを感じている方にはかなりとっかかりやすい本だと思います。

ぜひ、ご一読を。

 

 

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