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【読了記録】道尾秀介「いけない」感想【ネタバレあり】

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久々に大好きな道尾秀介さんの本を読みました。最新作の「雷神」も購入済みなのですが、ずっと読みたかった今作を先に読みました。

今作は道尾さんから読者に対する挑戦状のような作品で、気を抜いて読んでいた私は見事に騙されまくってしまったのでした。

記事の後半に物語の根幹に触れるネタバレを含みます。
これから読もうと思っている方は後半は絶対に読まないでくださいね。

 

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*>あらすじ<*

架空の町、蝦蟇倉(がまくら)市を舞台に起こる事故・事件をめぐるミステリーです。

特徴的なのはどの章も明確な答えが出ていないこと。
代わりに章の最後の1ページに物語の答えにたどり着けるヒントが記されています。

 

1.弓投げの崖を見てはいけない

蝦蟇倉市の東にある絶景スポット「弓投げの崖」は自殺スポットとしても有名です。それに伴って「弓投げの崖を見ると霊に引っ張られる」という怪談話も出る始末。

そんな弓投げの崖にほど近い蝦蟇倉東トンネルで安見邦男は事故を起こしてしまいます。事故の原因となった不良グループ3人は邦男がまだ息があるにも関わらず、放置し単体事故に見せかける偽装をしました。

三か月後、事件の真相を追う刑事隈島は邦男の妻であり大学時代の元カノである弓子を心配し家を訪れます。弓子に「犯人には遺影の前で土下座させる」と誓う隈島ですが、犯人として追っていた男がトンネル事故現場で何者かに撲殺されているのが発見されーー。

 

2.その話を聞かせてはいけない

小学生の馬珂(マー・カー)は5歳の時に家族で日本に引っ越してきた中国人です。名前が日本語の読み方で「バカ」と読むことでいじめられ、家の中華料理屋も経営難になっており家族仲も険悪なことから、毎日孤独に過ごしていました。

ある日クラスメイトに折られた赤青えんぴつを万引きするために、町の小さな文具屋に立ち寄ります。その店はおばあさんが店番をしているはずなのですが、その日はおばあさんは店頭におらず店内には革のジャンパーを着た男が立ち尽くしているのみでした。万引きをあきらめ店を後にする珂ですが、文具の配置が不自然だったこと、店の奥に誰かの足が見えていたことと、珂が店を出た後男が毛布にくるんだ細長い"何か"を運び出していたのを見たことからその男がおばあさんを殺したのではないかと想像します。

次の日同じくクラスで孤立している不気味な少年山内にその話をしますが鼻で笑われ一蹴されます。想像が現実であることを確認するため放課後例の文具屋に向うと、なんとおばあさんはいつも通り店番をしていたのでしたーー。

 

3.絵の謎に気づいてはいけない

かつて隈島の相棒をしていた刑事竹梨ははじめて新人の水元とバディを組むことになりました。二人は蝦蟇倉市に支部を置く宗教団体「十王環命会」の奉仕部長である宮下志穂の不審死について調査しています。彼女は自室のドアノブに延長コードを巻き付けて首吊りをしていました。殺人を疑う二人は遺体の第一発見者である十王環命会の支部長守谷とアパートの開錠に立ち会った管理会社クレホームズの代表中川に話を聞きますが、彼女が殺害されたことを裏付けることはできませんでした。

その後、瑞応川から中川のものと思しき手帳が発見されます。中を確認すると宮下の死について疑問をもっていたと思われるイラストとメモが書いてありました。そこから間もなく中川が弓投げの崖から遺体で見つかり、水元はある仮説にたどり着きますーー。

 

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4.街の平和を信じてはいけない

1~3章の一連の事件の結末が記されています。
ネタバレになってしまうので書くことができません……!

 

*>感想<*

道尾さんといえばミスリード叙述トリック……ということで物語が進むにつれて「そうだったのか!」の連続があるのかと思いきや、今作はテイストが少し違いました。

各章の真相は最後のページの写真をもとに自分で推理しなければなりません。
特に考えずに読んでいると「あれ?終わり??」となってしまうので、一文一文気が抜けない作品でした。

謎は難しすぎず、ちゃんと本文を読んだうえで写真を見ればだいたいの人は答えにたどり着けるのもおすすめポイントですね。

自分で考えて答えを出す達成感や喜びはひとしおですが、物語の後味は賛否が分かれそうです。今までの道尾作品が好きな方はきっと好きだと思います。

ぜひ、ご一読を。

 

 

以下は物語の根幹触れるネタバレになります。
すでに読んだ人への答え合わせというか、推理の共有みたいな感じで書いていきますので、これから読む人はお読みにならないことをおススメします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*>ネタバレあらすじ・感想<*

どの章も先が気になりすぎて一気読みしてしまいました。
結末まで読んでからもう一度ゆっくり最初から読み返すと、新たにわかることも多かったです。

 

1.弓投げの崖を見てはいけない:ネタバレあらすじ・感想

事故で死んだのは安見邦男ではなく、その息子直哉でした。「最後に見た」という一文や部屋の遺影から安見邦男が死んでいたとミスリードを誘っていましたね。

そしてこの章の命題「誰が死んだのか?」というのは章の最後にスピードを上げてゆかり荘の前を過ぎ去ろうとした十王環命会の車が誰を撥ねたのか、ということです。

その時刻ゆかり荘の周りには3人。

弟が返り討ちにされたことを疑い逃走した雅也。

さらなる復讐を遂行するために蝦蟇倉東トンネルに向う邦男。

弓子の身を案じゆかり荘へ急行している隈島。

最終ページの画像には冒頭の地図にゆかり荘の位置が付け加えられています。この地図と文中を照らし合わせると撥ねられたのは隈島であるとわかります。

にしても、いくら家から一直線とは言え目の見えない邦男が事故現場へ通い尚人をピンポイントで殺せるのはすごいですね。
それだけ犯人に対する恨みが強かったということでしょうか。

 

2.その話を聞かせてはいけない:ネタバレあらすじ・感想

珂が想像した光景はあながち間違いではありませんでした。しかし殺されていたのはおばあさんではなくおじいさん。おばあさんは共犯者でした。

おばあさんに見たことを話してしまったがために口封じのため弓投げの崖に突き落とされそうになりますが、"ある者"がおばあさんと甥っ子を突き落としたために珂は命拾いするのでした。

この章では珂を助けたのは誰なのか、が焦点になるわけですが最終ページのテレビ画面の写真を見るとインタビューを受ける甥っ子とおばあさんの後ろに車に潜り込もうとする子どもの姿が見えます。彼の来ている服の「H」という文字から普段「HAPPY」のトレーナーを着ている山内であることが読み取れます。

珂に助けてもらったお礼をしたいと常に言っていた山内は甥っ子の車に隠れ、おばあさんと甥っ子を崖から突き落としたのでしょう。

2章は珂が奇妙な妖怪を見ていたり、山内自体がかなりヤバい奴っぽかったりと1章とはまた違った不気味さがあります。

 

3.絵の謎に気づいてはいけない:ネタバレ・感想

竹梨刑事の後輩、水元刑事は宮下を殺したのは守谷だと睨んでいました。手帳に残された絵は宮下が首を吊っているような絵でしたが、巻末の写真によると実際の絵はドアノブの上にスマートロックが書いてある絵でした。白い手袋とボールペンの上部にわずかに見える白いマークから、竹梨刑事が絵に何かを書き加えようとしていることが読み取れます。

竹梨は十王環命会の信者であり、守谷を守るために絵を書きかえたのでした。水元は最終的にその謎に気付き先輩である竹梨に殺されてしまいます。

あり、その時も十王環命会を守るために法定速度を守っており、回避不可能な飛び出しだったと嘘をついたのでした。

 

水元刑事はやや突っ走ってしまうところがあるものの、洞察力も発想力も鋭くきっと優秀な刑事になったでしょうに……。

自分の世界を守るために犯罪も隠蔽も厭わないという竹梨の身勝手さがなんともいえない気持ちにさせます。

 

4.街の平和を信じてはいけない

安見邦男が自分の罪を語った告白文を弓子に代筆してもらい、竹梨刑事に渡すというシーンですが、最後の写真には白紙の5枚の便せんが映されています。
告白文を読んだ竹梨が困惑していることからも何も書かれていないことがわかりますね。

文中に弓子のボールペンの音や泣きながら読み上げている描写があることから、実際に代筆はしているのでしょうが封筒にいれたのは白紙の便せんだったのでしょう。

弓投げの崖に身を投げるつもりだった邦男はかつて保育園でいじめから助けてあげていた珂に声をかけられることで、もう少しだけ生きていたいと思いなおします。

見えない目で竹梨のカバンから抜き取ったのは邦男のものではなく、竹梨の告白文でした。竹梨もまた自らの罪に苛まれ告白文をしたためたものの、発表する勇気がなくずっとカバンに入れっぱなしだったそれを邦男が間違えて抜き取り破いてしまいました。

 

第1章で息子の復讐を果たした邦男第2章で友人との約束を果たすために文具店のおばあさんと甥っ子を崖から落とした山内十王環命会を守るために先輩刑事の死の真相を隠蔽しただけでなく第3章で同僚を殺害した竹梨、そして愛する人を亡くした哀しみに取り入り信者を増やし金を巻き上げ、邪魔者は消すカルト宗教十王環命会。

犯罪者はだれも裁かれることなく、この一見すると平和な街で生き続ける。

 

切ないとも悲しいとも怖いともなんとも言えない読後感がありました。

1回読んで「はぁー…」と思った後もう一回読んだのですが、一つ一つ読み返していくと小さな伏線がたくさん見つかって面白かったです。でもきっとまだまだ見つけられていない伏線や真実があるような気がしてなんだかずっと靄がかかったような気持ちです(苦笑)

 

道尾さんのこういう読後感の作品は大好きなので、今回も楽しく読むことができました。
楽しすぎてついつい長文になってしまうほどです;

 

一気読みせずにはいられない、良作でした。

 

 
 
 

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